粒子のカタチを自在にコントロール ~ 「医療費の削減」「在宅治療の促進」に貢献! ~
粒子のカタチを自在にコントロール
~「医療費の削減」「在宅治療の促進」に貢献! ~
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中国竞彩网大学院工学研究院応用化学部門の村上義彦教授の研究グループは、「粒子のカタチを自在にコントロールする技術」の開発に成功しました。本研究グループがすでに発見している自己乳化現象を巧みに利用することによって、さまざまな形状の多孔質粒子が得られました。この技術は、低コスト?低エネルギーの次世代の粒子の作製技術や、肺の深層部まで薬物を送達できる「世界最高レベルの低いタップ密度(0.05g/cm?)をもつ極めて軽い粒子」の作製技術として応用可能です。経肺投与治療法の確立により自宅で治療できる疾患が増え、ますます加速する超高齢化社会において「医療費削減」「高齢者の在宅治療」に大きく貢献します。
本研究成果は、アメリカ化学会のLangmuir電子版に2021年3月4日に掲載され、Supplementary Journal Coverにも採択されました。
URL: http://dx.doi.org/10.1021/acs.langmuir.0c03311
現状
多孔質材料(数多くの穴があいた構造をもつ材料)は、医療用粒子、クロマトグラフィー用の充填吸着体、電池用の電極、フィルター材、断熱材、吸音材などの幅広い用途で用いられています。材料にはゲル?シート?粒子などさまざまな形態がありますが、直径数?mの多孔質の「粒子」は肺の深層部(肺胞)に薬物を運ぶための担体(薬物キャリア)として注目されています。本研究グループでは、特定の構造をもつ高分子(親水性のポリエチレングリコールと疎水性のポリ乳酸が結合した構造を有し、水にも有機溶媒にも溶解する高分子)の作用によって自己乳化
(注1)
が生じることを発見し、この現象を巧みに利用することによって多孔質粒子を「一回の機械乳化のみで」作製できる低コスト?低エネルギーの新技術をすでに報告しています(Langmuir, 30, 3329-3336 (2014)。2014年3月13日にプレスリリース済み)。この多孔質粒子は世界最高レベルに低い(0.05g/cm?)タップ密度
(注2)
を有しています。その軽さから呼吸の流れに乗りやすく、薬物を保持したまま肺胞まで届くことが可能です。しかし、粒子のさらなる高性能化のためには、粒子の多孔質構造の制御が重要な課題でした。現在までに数多くの多孔質粒子が報告されていますが、報告ごとに粒子を構成する高分子の組成、濃度などが異なるため、普遍的な構造制御技術は確立されていません。
研究体制
本研究は、大学院工学研究院応用化学部門の村上義彦教授と大学院工学府応用化学専攻博士後期課程3年の西村真之介によって実施されました(JSPS科研費基盤研究B(20H04531)の助成による)。
研究成果
粒子を構成する高分子の組成や濃度に依存せず、粒子作製時に用いる有機溶媒の組成のみを調節するだけでさまざまな形態の粒子を得ることに初めて成功しました。
今回の検討で最も重要な技術ポイントは、「揮発性が異なる複数の有機溶媒」を混合して用いることです(一般には、粒子を作製する際には、一種類の有機溶媒のみが用いられます)。蒸気圧(揮発しやすさの指標)が異なるトルエン(蒸気圧:3.5kPa)とジクロロメタン(蒸気圧:56.0kPa)を混合して用いると、その混合有機溶媒からはジクロロメタンの方が速く蒸発し、混合有機溶媒中のトルエン比率は増加します。トルエン比率が増加した混合有機溶媒中では、自己乳化エマルションの安定性が高まるため、最終的に得られる粒子内部に空孔形成が促進されます。温度などが異なる条件においては、「異なる有機溶媒の蒸発速度」や「混合有機溶媒中におけるトルエン残存率」が変化します。この二つの因子が粒子形成に及ぼす影響を制御することによって、
「内部に空孔がない粒子(図1?左)」「内部の一部に空孔がある粒子(図1?中央)」「内部の全体に空孔がある粒子(図1?右)」という三つの形態の粒子を自在に作製することに成功し、その形成原理を解明しました(図2)
。
今後の展開
数多くの高分子微粒子は、「高分子を溶解した有機溶媒の液滴」を水中に分散して、有機溶媒を徐々に蒸発させる方法によって得られます。本研究では、有機溶媒共存下のあらゆる高分子粒子の作製技術に応用可能な、普遍性の高い構造制御原理を明らかにしました。この原理の確立は、粒子が活躍する幅広い研究領域(バイオ?医療材料、電子材料、光学?分子デバイス)への波及効果が高いと考えられます。特に医療領域においては、従来は調製が困難であった経肺投与DDS(ドラッグデリバリーシステム、薬物送達システム)に適した多孔質の薬物キャリアが簡便?精密?自在に得られます。痛みをともなわず、在宅でも実施可能な経肺投与DDSは非常に魅力的な投薬方法です。本粒子を用いた経肺投与DDSによって、病院に行かずに自宅で治療できる疾患の範囲が広がり、ますます加速する超高齢化社会において「医療費の削減」「在宅治療の促進」への貢献が期待されます。
用語解説
注1)自己乳化
??? 水と油(や有機溶媒)を混ぜるだけで自然に乳化する現象のこと。
注2)タップ密度
??? 「容器に入っている粉体の重量」を「容器をタップして(=叩いて)粒子間の隙間を詰めた体積」で割った値のこと。この値が小さいほど材料は軽い。
◆研究に関する問い合わせ◆
中国竞彩网 大学院工学研究院 応用化学部門 教授
村上義彦(むらかみよしひこ)
TEL/FAX:042-388-7387
E-mail:muray(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
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